
日本で働くベトナム人の多くは、毎年会社の健康診断を受けています。結果がすべて「A判定」なら、ひとまず安心するでしょう。しかし「B型肝炎の検査を受けたことはありますか?」と聞かれて、すぐに「はい」と答えられる人は多くありません。
ベトナムは、B型肝炎ウイルスの感染者が世界でも特に多い国の一つです。子どもの頃からウイルスを持っていても、何年も普通に働き続け、体調を崩して受診したときには肝臓がかなり傷んでいた、というケースもあります。
この記事では、日本で暮らすベトナム人とその周りで支える方に向けて、検査を受けるべき理由、無料で受けられる場所、職場に知られないかという不安、そして陽性だった場合にすべきことをまとめました。
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)によって肝臓に炎症が起こる病気です。ウイルスが6か月以上体内にとどまると慢性肝炎となり、慢性肝炎から肝硬変、肝がんへと10〜40年かけて進むことがあります(宮崎県)。
その間、多くの人は痛みも違和感もありません。だるさ、食欲不振、黄疸などの症状が出たときには、肝臓のダメージが進んでいることが少なくありません。感染しているかどうかを知る方法は、血液検査しかありません。
「食器を共有するとうつる」と誤解されがちですが、主な感染経路は血液、性交渉、出産時の母子感染です。食事を一緒にとる、握手をする、抱き合うといった日常生活で感染することはまずありません。
厚生労働省の資料によると、日本の肝がんの約52%はB型またはC型肝炎ウイルスが原因です(厚生労働省, 2026)。
ベトナムは、B型・C型肝炎の感染者数が世界で最も多い10か国の一つで、B型肝炎の感染者は約650万人とされています(VOH)。2018〜2019年に32の省・市で成人2万5千人以上を対象に行われた調査では、B型肝炎の慢性感染率は9.2%、およそ11人に1人でした(Tuổi Trẻ)。
一方、日本のB型・C型肝炎ウイルスの持続感染者は、合わせて約110万〜142万人と推計されています(厚生労働省, 2026)。人口比で見ると、ベトナムの感染率は日本より何倍も高く、ベトナム人にとってこの検査は特に重要です。
ベトナムで最も多い感染経路は、出産時の母子感染です。生後1年以内に感染した乳児は、約90%が慢性感染に移行するとされています(PLO)。本人も家族も知らないまま、子どもの頃からウイルスを持っている可能性があります。
労働安全衛生法に基づく定期健康診断の必須項目には、肝炎ウイルス検査は含まれていません。会社が追加で行う場合も、本人の個別の同意が必要です(厚生労働省)。また、肝機能(AST・ALT)の数値が正常でも、ウイルスに感染していないとは限りません。
B型肝炎は飲み薬でウイルスの増殖を抑えることができ、C型肝炎は高い確率でウイルスを排除できるようになっています。早く知れば、肝硬変になる前に経過観察や治療を始める時間があります。
一度も検査を受けたことがない人、両親やきょうだいにB型肝炎の人がいる人、妊娠を考えている人、衛生状態のわからない場所で輸血・タトゥー・ピアスをしたことがある人は、検査を受けることをおすすめします。
技能実習生、特定技能、留学生として日本で暮らすベトナム人が検査をためらう理由は、採血そのものよりも「陽性だったら会社に知られるのでは」「解雇されたり、契約を更新してもらえなかったりするのでは」という不安であることが少なくありません。
この点について、厚生労働省は事業者向けに次のような指針を示しています(厚生労働省)。
また、保健所の検査は匿名で受けられるところも多くあります。検査結果を会社に報告する義務はありません。
仕事を休みにくい場合は、事前に検査日を確認しましょう。保健所の検査は平日が中心ですが、委託医療機関では地域によって受診できる時間帯が異なります。
ベトナム人を雇用している企業や支援機関の方は、「会社の健康診断では肝炎ウイルスを調べていない」こと、「無料検査があること」を伝えるだけでも、本人が検査を受けるきっかけになります。
肝炎ウイルス検査は、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスに感染しているかを、少量の採血で同時に調べる検査です。
種類 | 主な検査項目 | 陽性の場合 |
|---|---|---|
B型肝炎 | HBs抗原 | 現在B型肝炎ウイルスに感染している |
C型肝炎 | HCV抗体 | 現在または過去に感染した可能性があり、追加の検査で確認が必要 |
国や自治体は「一生に一度は肝炎ウイルス検査を」と呼びかけています。陰性で、その後に新たな感染の機会がなければ、定期的に検査を受ける必要はありません(山梨県)。
多くの都道府県・市区町村では、住民を対象にB型・C型肝炎ウイルス検査を1回無料で受けられる制度があります。主な受検先は次の3つです。
受検先 | 費用 | ポイント |
|---|---|---|
保健所 | 無料 | 匿名で受けられるところが多い。事前予約が必要 |
都道府県の委託医療機関 | 無料 | 例:京都府では114の医療機関で実施(京都府) |
市区町村の検査(健康増進法に基づく) | 無料または低額(自治体により異なる) | 主に40歳以上で、これまで検査を受けたことがない人が対象 |
神奈川県の場合、県内に住んでいること、これまで肝炎ウイルス検査を受けたことがないこと、職場の健康診断などほかに検査を受ける機会がないこと、が無料検査の条件です(神奈川県)。横浜市や川崎市など、独自の制度を設けている市もあります。
条件は自治体ごとに異なります。「お住まいの都道府県名・市区町村名 + 肝炎ウイルス検査 無料」で検索するか、最寄りの保健所に電話で問い合わせるのが確実です。
「陽性」と書かれた結果を見れば、誰でも不安になります。ただ、この結果はウイルスを持っていることを示すだけで、肝臓の状態まではわかりません。B型肝炎ウイルスを持っていても、適切に経過観察を続けながら、普通に働き、家庭を持って暮らしている人はたくさんいます。
最初にすべきことは、肝臓内科または消化器内科、できれば肝疾患専門医療機関を受診することです。ウイルスの量(HBV-DNA)や肝機能の血液検査、腹部超音波検査などを行い、治療が必要か、経過観察でよいかを判断します。
費用が心配で受診をためらう人もいますが、日本には肝炎ウイルス陽性者を支える助成制度があります。医療保険(社会保険または国民健康保険)に加入していることが前提で、詳しい条件は都道府県によって異なります。
ベトナムにいる両親やきょうだい、配偶者、子どもにも検査をすすめましょう。感染していない人は、B型肝炎ワクチンで予防できます。家庭では、カミソリ、歯ブラシ、爪切りの共用を避けてください。
妊娠中の人は、産科の医師に伝えましょう。赤ちゃんには出生後すぐに免疫グロブリンとワクチンを投与し、母子感染のリスクを下げます。
症状がなくても、医師に指示された間隔で定期的に受診することが大切です。仕事が忙しい、体調がよいといった理由で通院をやめないようにしましょう。飲酒は控え、薬やサプリメントを使う前には医師に相談してください。
保健所への電話予約、医師によるHBV-DNAの説明、受給者証の申請書類。日常会話には困らなくても、医療の専門用語になると戸惑うベトナム人は少なくありません。医師の説明を誤解すると、必要以上に不安になったり、大切な定期受診を逃したりすることにもつながります。
HICOは、株式会社ワップ(Wap - Japan Medical Gate)が提供する、日本で暮らすベトナム人のための受診サポートアプリです。
これから検査を受ける方、結果を受け取って専門医を受診する予定の方は、ベトナム語でサポートするHICOをぜひご利用ください。ベトナム人を雇用する企業や支援機関の方も、従業員の受診サポートとしてご活用いただけます。
外国人でも肝炎ウイルス検査を無料で受けられますか? 多くの場合、その自治体に住民登録をしている人が対象で、国籍は問われません。詳しい条件は都道府県・市区町村のホームページで確認するか、保健所に問い合わせてください。
B型肝炎が陽性だと、会社を解雇されますか? 厚生労働省の指針では、肝炎ウイルスの感染者はほかの労働者と異なる扱いをする理由はないとされています。検査結果は個人情報であり、本人の同意なく他人に知られないよう配慮することが求められています。不利益な扱いを受けた場合は、労働基準監督署や、所属する監理団体・登録支援機関に相談しましょう。
B型肝炎ワクチンを打ったことがあれば、検査は不要ですか? 一度も検査を受けたことがなければ、受けることをおすすめします。ワクチンは感染していない人を守るためのもので、接種前にすでに感染していた場合、ウイルスを排除することはできません。
陰性だった場合、また検査を受ける必要はありますか? 陰性で、その後に新たな感染の機会がなければ、通常は再検査の必要はありません。
B型肝炎は完治しますか? 現在、B型肝炎ウイルスを完全に排除する薬はありません。ただし、飲み薬でウイルスの増殖を抑え、肝硬変や肝がんのリスクを下げることができます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医師の診断や助言に代わるものではありません。無料検査や医療費助成の条件は自治体によって異なり、変更されることがあります。最新の情報はお住まいの地域の保健所または市区町村役場でご確認ください。