-1.jpg&w=3840&q=75)
先日、日本の自治体が提供する無料クーポンを利用して乳がん検診を受けられた、49歳の女性患者さんの医療通訳を務める機会がありました。
その方は、最近になって「ブラジャーが濡れるほど、片方の乳頭から分泌物がたくさん出る」「右胸に軽い痛みと張り感がある」という症状に気づいていたものの、仕事の忙しさからすぐには病院を受診できずにいました。なんとかスケジュールを調整し、ようやく受診に至ったそうです。
しかし、視触診、マンモグラフィ、そして乳房超音波(エコー)検査の結果、医師から告げられたのは「乳がん」の診断でした。
医師から「腫瘍の切除手術が必要であること」、そして同時に「センチネルリンパ節生検」を行うという説明を受けたとき、彼女は非常に困惑し、不安そうな表情を浮かべました。
「どうしてリンパ節まで調べる必要があるの?」
「もうがんが転移してしまっているということ?」
「脇のリンパ節をすべて取り除かなければいけないの?」
これらは、多くの乳がん患者さんが直面する共通の疑問であり、不安です。
今回は、現代の乳がん治療を大きく変えた重要な技術である「センチネルリンパ節生検」について、HICOと一緒に詳しく見ていきましょう。
ご存知のように、がん細胞が元の腫瘍から外へと広がっていく(転移する)ルートには、主に次の2つがあります。
このうち、リンパ網は体中に張り巡らされた「高速道路」のようなものです。このルートの要所要所には、「リンパ節」というチェックポイントが存在します。
乳がんの場合、乳房からのリンパ液の大部分は脇の下(腋窩:えきか)のリンパ節へと流れ込みます。そのため、がん細胞が腫瘍から離れて移動を始める際、最初にたどり着くのがこの脇の下のリンパ節になります。
かつて医学界では、がんは「乳房 ➔ 脇のリンパ節 ➔ さらに遠くのリンパ節 ➔ 他の臓器」へと段階的に転移していくと考えられていました。そのため、以前はほぼすべての乳がん患者さんに対して、脇の下のリンパ節をすべて切除する「腋窩リンパ節郭清(かくせい)」が行われていたのです。
しかし、その後の世界的な大規模研究により、実際の病態はもっと複雑であることが分かってきました。リンパ節をすべて切除したものの、調べてみたらがん細胞が1つも見つからなかったという患者さんも多くいたのです。つまり、多くの患者さんが「治療上のメリットがないにもかかわらず、手術による重い後遺症のリスクだけを背負っていた」ということになります。
リンパの流れを「川」に例えてみましょう。腫瘍は川の上流にある出発点です。がん細胞が流れに乗って移動する場合、さらに先へ進む前に必ず通過する「最初の検問所(チェックポイント)」があります。
この最初の検問所こそが「センチネルリンパ節」です。 英語の「Sentinel」には「見張り」「番人」という意味があるため、日本語では「見張りリンパ節」や「前哨(ぜんしょう)リンパ節」とも呼ばれます。
言い換えれば、腫瘍から流れてくるリンパ液を最初に受け止めるリンパ節のことです。もしこの「見張り役」のリンパ節にがん細胞がいなければ、その先にあるリンパ節にも転移していない可能性が極めて高いと判断できます。
乳がんの手術中に、医師は腫瘍の周囲または乳輪の周りに「マーカー(識別物質)」を注射します。
病院の設備や方針によって、使用されるマーカーは異なりますが、主に以下のものが使われます。
これらの物質は、がん細胞と同じようにリンパ管を通って移動します。医師はその流れるルートを追うことで、最初にたどり着くリンパ節(センチネルリンパ節)を特定します。
その後、以下の手順が進められます。
この一連の検査・手術プロセスのことを「センチネルリンパ節生検」と呼びます。
これは、すべての患者さんが最も望む結果です。センチネルリンパ節が陰性であれば、以下のメリットがあります。
この場合、医師はさらに以下の要素を総合的に評価し、次の治療方針を決定します。
注目すべきは、現在では「リンパ節転移が少しでもあるからといって、必ずしもすべてのリンパ節を根こそぎ切除(郭清)しなければならないわけではない」という点です。
多くの国際的な大規模臨床試験により、転移が軽微な一部の患者さんにおいては、適切な術後補助療法(薬物や放射線)を行うことで、リンパ節の郭清を省略しても生存率に影響を及ぼさないことが証明されています。
それは、脇の下のリンパ節を広範囲に切除すると、患者さんのその後のQOL(生活の質)を脅かす以下のような深刻な後遺症が起こりやすくなるためです。
だからこそ、不要な切除を回避できる「センチネルリンパ節生検」は、現代の乳がん手術における最も重要な進歩の一つとされているのです。
医師が患者さんに説明する際、私たち医療通訳者は単に言葉を直訳するだけでなく、「なぜこの検査を行うのか」「それによって患者さんの術後の生活がどう変わるのか」という目的を深く理解しておく必要があります。
ここで、乳がん治療において必ず覚えておきたい重要キーワードを整理しておきましょう。
ベトナム語 (Tiếng Việt) | 日本語 (Tiếng Nhật) |
Hạch gác / Hạch canh gác | センチネルリンパ節 / 見張りリンパ節 / 前哨リンパ節 |
Sinh thiết hạch gác | センチネルリンパ節生検 |
Hạch nách | 腋窩(えきか)リンパ節 |
Nạo vét hạch nách | 腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい) |
Di căn hạch | リンパ節転移 |
Phù bạch huyết | リンパ浮腫(ふしゅ) |
女性の皆さんは忙しい日々をお過ごしのことと思いますが、ご自身の健康を守るために、ぜひ定期的な乳がん検診(がんスクリーニング)を忘れずに受けてくださいね。
この記事の参考資料として、以下のリンクをご参照ください。